『星の王子さま』サン=テグジュペリ — 砂漠で出会った、ちいさな旅人の物語

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子どものころに読んだ本を、大人になって読み返したら、まったく違う本に見えた――そんな経験の代表格が、サン=テグジュペリの『星の王子さま』(原題 Le Petit Prince)です。見た目は挿絵つきの薄い童話。けれど中に書かれているのは、大人になるうちに私たちが忘れてしまったものの話です。

今回は、はじめて読む方にも、昔読んだきりの方にも向けて、物語の入り口と読みどころを紹介します。結末や後半の展開には触れません。

どんな本か――作者と時代

作者のアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリは、1900年6月29日にフランスのリヨンで生まれました。作家であると同時に飛行士でもあり、郵便飛行の操縦士として働き、第二次世界大戦ではフランス空軍の一員として飛んでいます。1944年7月31日、コルシカ島の基地から偵察飛行に飛び立ったまま戻らず、その死の原因はいまも分かっていません。

『星の王子さま』は、戦争のさなかの1942年、作者がアメリカに滞在していたときに書かれ、1943年4月にアメリカのレイナル&ヒッチコック社から英語版とフランス語版が出版されました。フランス本国で出たのは、戦争が終わってからのことです。印象的な挿絵も、作者自身の手によるもの。2024年11月までに、600の言語・方言に訳されています。

物語の入り口――砂漠に不時着した飛行士と、ひとりの少年

語り手の「ぼく」は、六歳のとき、ゾウを丸のみしたボアという大蛇の絵を描きました。ところが大人たちに見せると、みんな「帽子だね」と言うばかり。絵なんかやめて、もっと役に立つ勉強をしなさいと言われ、「ぼく」は画家になる夢をあきらめます。

大人になって飛行機の操縦士になった「ぼく」は、ある日、サハラ砂漠に不時着します。人の住む場所からはるか遠く、飲み水もわずか。ひとりで機体の修理にとりかかっていると、どこからともなく現れた小さな男の子が、こう頼むのです――ヒツジの絵を描いて、と。

この男の子こそが王子さまでした。家ほどの大きさしかない小さな星からやってきたこと、その星には三つの火山と、放っておくと星をおおいつくしてしまうバオバブの芽と、一輪の大切なバラがあること。王子さまの話は、「ぼく」との日々のなかで少しずつ語られていきます。彼がなぜ星を離れ、どんな旅をしてきたのか――それはぜひ本で確かめてください。

読みどころ――子どもの目で見た「大人」

この本の大人たちは、どこか滑稽です。ゾウをのみこんだ大蛇の絵が帽子にしか見えず、子どもの絵より「役に立つ勉強」をすすめる。作中の「ぼく」も、王子さまも、そんな大人たちを責めるのではなく、不思議そうに見つめます。その視線に、読んでいる私たち大人は、ちょっとどきりとさせられます。

もう一つの読みどころは、短い章と挿絵が生む余白です。語られていないことのほうが多いので、読む人の年齢や、そのときの気持ちによって、心に残る場面がまるで変わります。子どものころに読んだ方こそ、いま読み返すと新しい発見があるはずです。

こんな人におすすめ

  • 短い時間で、長く心に残る本を読みたい人
  • 子どものころに読んだきりで、内容をよく覚えていない人
  • 大切な人に贈る一冊を探している人

邦訳はいくつもあります。1953年から読み継がれてきた内藤濯訳は岩波文庫などで、2005年以降に出た新しい訳では、新潮文庫の河野万里子訳などが手に取りやすいでしょう。光文社古典新訳文庫の野崎歓訳は、原題に沿って『ちいさな王子』という題になっていますが、同じ作品です。訳によって王子さまの話しぶりがずいぶん違うので、読みくらべるのも楽しみの一つです。

最初のページの「帽子」の絵を見て、あなたには何に見えるか。そこから、この本との対話が始まります。

English version of this review: The Little Prince

参考

  • Wikipedia「Antoine de Saint-Exupéry」(生年と出生地・1944年7月31日にコルシカ島の基地から偵察飛行に出て戻らなかったこと・死因不明・飛行士としての経歴) https://en.wikipedia.org/wiki/Antoine_de_Saint-Exup%C3%A9ry
  • Wikipedia「The Little Prince」(初版の刊行年月と出版者・執筆の時期と場所・挿絵も作者・翻訳言語数(2024年11月までに600の言語・方言)・序盤の筋・ジャンル) https://en.wikipedia.org/wiki/The_Little_Prince
  • Wikipedia(日本語)「星の王子さま」(内藤濯訳の刊行年・2005年以降の新訳) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%98%9F%E3%81%AE%E7%8E%8B%E5%AD%90%E3%81%95%E3%81%BE
  • 岩波書店『星の王子さま』岩波文庫・内藤濯訳 https://www.iwanami.co.jp/book/b297935.html
  • 新潮社『星の王子さま』新潮文庫・河野万里子訳 https://www.shinchosha.co.jp/book/212204/
  • 光文社古典新訳文庫『ちいさな王子』野崎歓訳 https://www.kotensinyaku.jp/books/book02/