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恋愛小説の「型」をたどっていくと、かなりの確率でこの一冊に行き着きます。ジェイン・オースティンの『高慢と偏見』(原題 Pride and Prejudice)。1813年にイギリスで出版されてから200年以上、読み継がれてきた長編小説です。
「古典」と聞くと身構えてしまうかもしれません。でも中身は、うわさ好きの母親、個性の違う五人姉妹、感じの悪い青年との最悪の出会い――と、いまのドラマや漫画にそのまま置きかえられそうな話です。今回は、はじめて読む方に向けて、物語の入り口と読みどころを紹介します。結末や後半の展開には触れません。
どんな本か――作者と時代
作者のジェイン・オースティンは、1775年12月16日にイギリス南部ハンプシャーのスティーヴントンで生まれ、1817年7月18日に41歳で亡くなりました。当時は女性の作家が名前を伏せて本を出すことが珍しくなく、オースティンも生前、自分の名前を本に載せていません。『高慢と偏見』の初版(1813年1月28日刊)も、作者は「『分別と多感』の作者」とだけ記されていました。
もとの題は『第一印象(First Impressions)』。1796年から翌97年にかけて書かれた原稿を、のちに手直しして出版したものです。この元の題名は、物語の中身をよく表しています。
物語の入り口――五人姉妹と、隣に越してきた青年
舞台はイギリスの田舎、ハートフォードシャー。ロングボーンという屋敷に住むベネット家には、ジェイン、エリザベス、メアリー、キャサリン(キティ)、リディアという五人の娘がいます。困ったことに、この家の財産は「男子の相続人がいない場合は遠縁の男性に渡る」と決められていて、娘たちには残りません。だから母親のベネット夫人は、娘たちを良い家に嫁がせることで頭がいっぱいです。
そこへ、近くの大きな屋敷ネザフィールドに、独身でお金持ちの青年ビングリーが越してきます。町の舞踏会に現れたビングリーは気さくで、たちまち人気者に。一方、彼の友人のダーシーは、年収一万ポンドといううわさで注目を集めたものの、無愛想で高慢な態度のせいで、あっという間に評判を落とします。しかも主人公のエリザベスは、ダーシーが自分のことを「まあ悪くはないが、ぼくが踊る気になるほどの美人ではない」と言うのを耳にしてしまいます。
こうして始まった二人の関係がどうなっていくのか――それはぜひ本で確かめてください。
読みどころ――有名な書き出しと、皮肉の効いた語り
この小説は、広く知られた、こんな一文で始まります。
It is a truth universally acknowledged, that a single man in possession of a good fortune must be in want of a wife.
(財産のある独身の男性なら、きっと妻をほしがっているにちがいない――これは世間の誰もが認める真理である。)
一見すると堂々とした格言ですが、読み進めると、これが「独身の金持ちを、よその家の娘の夫にしようと待ちかまえている近所の人たち」の思い込みだと分かってきます。まじめな顔で世の中の身勝手さをからかう、この皮肉の効いた語りこそがオースティンの持ち味です。
もう一つの読みどころは、主人公エリザベスの人物像です。頭の回転が速く、おかしなことを面白がる明るい性格で、相手が誰でも言うべきことは言う。200年前の小説の主人公なのに、いま読んでも「こういう人、いるな」と思わせます。そして、題名の「高慢」と「偏見」が誰のことなのかを考えながら読むと、会話の一つひとつがぐっと面白くなります。
こんな人におすすめ
- 恋愛ドラマや少女漫画の「最初は最悪、なのに気になる」関係が好きな人
- 海外の古典を読んでみたいけれど、重たい話は苦手という人
- 家族や近所づきあいの、ちょっとした気まずさや可笑しさを描いた話が好きな人
邦訳はいくつもの出版社から出ています。たとえば岩波文庫(富田彬訳・上下巻)や、光文社古典新訳文庫(小尾芙佐訳・上下巻)など。新潮文庫からは『自負と偏見』という題で小山太一訳が出ており、題名が違っても同じ作品です。書店で見くらべて、読みやすいと感じた訳を選ぶのがいちばんです。
最初の数ページで、ベネット夫妻のかみ合わない会話に笑ってしまったら、もうこの本の世界に入りこんでいます。
English version of this review: Pride and Prejudice
参考
- Project Gutenberg「Pride and Prejudice by Jane Austen」(eBook #1342・本文) https://www.gutenberg.org/ebooks/1342
- Wikipedia「Jane Austen」(生没年・匿名での刊行) https://en.wikipedia.org/wiki/Jane_Austen
- Wikipedia「Pride and Prejudice」(初版の刊行日・出版者・原題) https://en.wikipedia.org/wiki/Pride_and_Prejudice
- 岩波書店『高慢と偏見(上)』岩波文庫・富田彬訳 https://www.iwanami.co.jp/book/b247257.html
- 光文社古典新訳文庫『高慢と偏見(上)』小尾芙佐訳 https://www.kotensinyaku.jp/books/book137/
- 新潮社『自負と偏見』新潮文庫・小山太一訳 https://www.shinchosha.co.jp/book/213104/
