『グレート・ギャツビー』F・スコット・フィッツジェラルド — 1922年夏、ロングアイランドの隣人の物語

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アメリカ文学の名作としてよく名前の挙がる一冊が、F・スコット・フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』(原題 The Great Gatsby)です。1925年に出版された長編で、映画にもなり、題名だけは知っているという方も多いのではないでしょうか。

舞台は1920年代、好景気にわくアメリカ。大邸宅でたびたび豪華なパーティーを開くのに、自分はどこか輪の外にいる謎めいた男――それがギャツビーです。今回は、はじめて読む方に向けて、物語の入り口と読みどころを紹介します。結末や後半の展開には触れません。

どんな本か――作者と時代

作者のF・スコット・フィッツジェラルドは、1896年9月24日にアメリカ中西部ミネソタ州のセントポールで生まれ、1940年12月21日にカリフォルニア州ロサンゼルスで亡くなりました。第一次世界大戦後の浮かれた1920年代のアメリカを指す「ジャズ・エイジ」という呼び名を広めたのも、この作家です。

『グレート・ギャツビー』は1925年4月10日、チャールズ・スクリブナーズ・サンズ社から出版されました。アメリカでは2021年1月1日に著作権が切れ、英語の原文はProject Gutenbergで無料で読めます。

物語の入り口――西の卵と東の卵

語り手は、中西部出身の青年ニック・キャラウェイです。イェール大学を出て第一次世界大戦に従軍し、帰ってくると故郷が物足りなくなって、東部で証券の仕事を学ぶことにします。1922年の春に東部へやって来たニックは、ニューヨーク郊外、ロングアイランドのウェスト・エッグに小さな借家を見つけます。

ロングアイランドには、湾をはさんで卵形の二つの土地が向かい合っています。ニックが住むのは、あまり上品とはいえないウェスト・エッグ。対岸には、昔からの名家が屋敷を連ねるイースト・エッグがあります。ニックの家は、豪邸と豪邸にはさまれた小さな一軒。右隣には、ノルマンディーの市庁舎をまねた、塔と大理石のプールのある大邸宅がそびえていました。持ち主の名前はギャツビー。ニックはまだ本人に会ったことがありません。

夏のはじめ、ニックはイースト・エッグに住む遠縁のデイジーと、その夫トムの屋敷に夕食に招かれます。そこで出会ったゴルファーのジョーダン・ベイカーの口から、「ギャツビー」という名前がふと出てきます。その夜、家に戻ったニックは、隣の芝生に一人たたずみ、暗い海の向こうへ腕を伸ばす男の姿を目にします。海の向こうに見えるのは、遠くの桟橋の先らしい、小さな緑色の灯りだけでした。

この男が何者なのか――それはぜひ本で確かめてください。

読みどころ――有名な書き出しと、語り手の距離感

この小説は、こんな一文で始まります。

In my younger and more vulnerable years my father gave me some advice that I've been turning over in my mind ever since.

(まだ若くて傷つきやすかったころ、父がくれた忠告がある。そのことを、ぼくはそれ以来ずっと心のなかで考えつづけている。)

その忠告とは、人を批判したくなったら、世の中の誰もが自分と同じように恵まれていたわけではないと思い出せ、というもの。この言葉のおかげで、自分は人を簡単に裁かない性分になった、とニックは語ります。ギャツビーやデイジーたちを一歩引いた場所から見つめるこの語り手の距離感が、物語全体の手ざわりを決めています。

もう一つの読みどころは、文章そのものです。パーティーの光、夏の空気、夜の海が、目に浮かぶように描かれます。そして、華やかな場面ほど、どこか寂しさがにじむ。その明るさと影の同居が、この小説を、出版から100年たったいまも古びさせずにいるのだと思います。

こんな人におすすめ

  • きらびやかな世界の裏側を描いた物語が好きな人
  • 短めの長編で、海外の古典を一冊読みとおしてみたい人
  • 映画版を観たことがあり、原作の文章の味わいも知りたい人

邦訳はいくつもの出版社から出ています。たとえば新潮文庫の野崎孝訳は、長く読まれてきた定番です。村上春樹訳は中央公論新社の「村上春樹翻訳ライブラリー」に入っています。光文社古典新訳文庫からは、小川高義訳が『グレート・ギャッツビー』という表記で出ており、表記が違っても同じ作品です。冒頭を読みくらべて、しっくりくる訳を選ぶのがいちばんです。

隣の家から聞こえてくる音楽に、ニックと一緒に耳を澄ませてみてください。気づけばあなたも、あの夏のロングアイランドにいます。

English version of this review: The Great Gatsby

参考

  • Project Gutenberg「The Great Gatsby by F. Scott Fitzgerald」(eBook #64317・本文) https://www.gutenberg.org/ebooks/64317
  • Wikipedia「F. Scott Fitzgerald」(生没年・出生地と死去地) https://en.wikipedia.org/wiki/F._Scott_Fitzgerald
  • Wikipedia「The Great Gatsby」(刊行日・出版者・舞台と時代・パブリックドメイン入り) https://en.wikipedia.org/wiki/The_Great_Gatsby
  • 新潮社『グレート・ギャツビー』新潮文庫・野崎孝訳 https://www.shinchosha.co.jp/book/206301/
  • 中央公論新社『グレート・ギャツビー』村上春樹翻訳ライブラリー・村上春樹訳 https://www.chuko.co.jp/tanko/2006/11/403504.html
  • 光文社古典新訳文庫『グレート・ギャッツビー』小川高義訳 https://www.kotensinyaku.jp/books/book89/