『若草物語』ルイーザ・メイ・オルコット — 贈り物のないクリスマスから始まる四人姉妹の物語

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家族を描いた小説で、世界中で長く読まれてきた一冊をあげるなら、ルイーザ・メイ・オルコットの『若草物語』(原題 Little Women)は外せません。1868年にアメリカで出版されてから150年以上読み継がれ、映画だけでも7回つくられてきた長編小説です。

「四人姉妹の物語」と聞くと清く正しいお話を想像するかもしれませんが、最初のページから姉妹は文句を言い、言い合いをし、それでもお互いが大好きです。今回は、はじめて読む方に向けて、物語の入り口と読みどころを紹介します。結末や後半の展開には触れません。

どんな本か――作者と時代

作者のルイーザ・メイ・オルコットは、1832年11月29日にアメリカのペンシルベニア州ジャーマンタウンで生まれ、1888年3月6日にボストンで55歳で亡くなりました。父は思想家で教育者のエイモス・ブロンソン・オルコット。南北戦争中には、ワシントンの病院で看護師として働いた経験もあります。

『若草物語』が生まれたきっかけは、出版社からの提案でした。1868年、編集者のトーマス・ナイルズが「少女たちを描いた、多くの人に読まれる小説を書いてみては」と勧めたのです。第1部は同じ年の9月30日にロバーツ・ブラザーズ社から出版され、翌1869年4月には第2部も刊行されました。

物語の入り口――贈り物のないクリスマス

舞台は南北戦争のころのマサチューセッツ州。マーチ家には、16歳のメグ、15歳のジョー、13歳のベス、12歳のエイミーという四人の娘がいます。父は北軍(アメリカ北部側の軍)の従軍牧師(戦場で兵士を支える牧師)として戦地に出ていて、家を守っているのは、娘たちが「マーミー」と呼ぶ母親です。暮らしは楽ではなく、今年のクリスマスは贈り物もありません。

ところが、すり切れた母の室内履きを目にしたとき、ベスが言い出します。自分たちのものは買わずに、お母さんに何か贈ろう、と。その晩、戦地の父から届いた手紙が読みあげられ、姉妹は父が帰ってくるまでに、自分の弱いところと向き合おうと心に決めます。

隣の大きな屋敷には、お金持ちのローレンス老人とその孫が住んでいます。その少年ローリーとジョーが思いがけない場所で出会うのは第3章のこと。四人と隣人たちの関係がどう育っていくのか――それはぜひ本で確かめてください。

読みどころ――不満げな書き出しと、四人四様の姉妹

この小説は、ジョーのこんなぼやきで始まります。

"Christmas won't be Christmas without any presents," grumbled Jo, lying on the rug.

(「プレゼントのないクリスマスなんて、クリスマスじゃない」と、敷物に寝ころんだジョーがぼやいた。)

ずいぶん不満げな書き出しですが、この飾らなさこそが魅力です。姉妹は最初から「よい子」として描かれているわけではありません。自分の見た目を気にしがちなメグ、かんしゃく持ちで男の子のようにふるまうジョー、はずかしがり屋のベス、自分を立派なレディだと思っている末っ子のエイミー。それぞれに弱いところを抱えた四人が、毎日の小さな失敗をくり返しながら、少しずつ変わっていきます。

とくに次女のジョーは、多くの読者にとって特別な主人公です。自分で劇の台本を書き、「お父さんのところへ行って一緒に戦いたい」とまで言う。女の子らしさを求められる時代に、自分の思うように生きたいともがく姿は、いま読んでも古びていません。

もう一つ知っておくと楽しいのが、ジョン・バニヤンの『天路歴程』(信仰の道を旅にたとえた物語)です。姉妹が幼いころに「巡礼ごっこ」をして遊んだ本で、第1章の題名も "Playing Pilgrims"。この仕掛けのおかげで、毎日のできごとが一人ひとりの小さな「旅」として見えてきます。

こんな人におすすめ

  • 姉妹や家族が、けんかと仲直りをくり返す話が好きな人
  • 「自分らしく生きたい」ともがく主人公を応援したくなる人
  • 映画やドラマで『若草物語』を観て、原作ではどう描かれているのか知りたい人

邦訳を選ぶなら

邦訳はいくつもの出版社から出ています。たとえば光文社古典新訳文庫(麻生九美訳)や、新潮文庫(小山太一訳)など。原作は第1部と第2部に分かれているので、どこまで収められているかは目次で確かめると安心です。書店で最初の数ページを見くらべて、読みやすいと感じた訳を選ぶのがいちばんです。

暖炉の前で母の帰りを待つ姉妹の言い合いを読み終えるころには、あなたもマーチ家の居間に座っている気分になっているはずです。

English version of this review: Little Women

参考

  • Project Gutenberg「Little Women by Louisa May Alcott」(eBook #514・本文。書き出し・第1〜3章の内容・姉妹の年齢・章題) https://www.gutenberg.org/ebooks/514
  • Wikipedia「Louisa May Alcott」(生没年・生地・父・南北戦争中の看護) https://en.wikipedia.org/wiki/Louisa_May_Alcott
  • Wikipedia「Little Women」(第1部・第2部の刊行年月・出版社・執筆のきっかけ・舞台・映画化7回) https://en.wikipedia.org/wiki/Little_Women
  • 光文社古典新訳文庫『若草物語』麻生九美訳 https://www.kotensinyaku.jp/books/book262/
  • 新潮社『若草物語』新潮文庫・小山太一訳 https://www.shinchosha.co.jp/book/202904/