この記事にはアフィリエイト広告(もしもアフィリエイト)のリンクが含まれます。
「いつか読まなければ」と思いながら、なかなか手が伸びない世界文学の代表格といえば、この一冊かもしれません。フョードル・ドストエフスキーの『罪と罰』(原題 Преступление и наказание)。1866年にロシアの雑誌で連載が始まってから150年以上、世界中で読み継がれてきた長編小説です。
分厚さと重そうな題名に身構えてしまう方も多いと思います。でも読みはじめると、借金を抱えて下宿のおかみから逃げまわる若者の、息づかいが聞こえるような話です。今回は、はじめて読む方に向けて、物語の入り口と読みどころを紹介します。事件の経緯や後半の展開には触れません。
どんな本か――作者と時代
ドストエフスキーは1821年11月11日(当時のロシアの暦では10月30日)にモスクワで生まれ、1881年2月9日にサンクトペテルブルクで亡くなりました。若いころ、政府に批判的な文章を読み回していたグループに加わっていたため、1849年に逮捕されます。銃殺刑の判決を受け、刑場に立たされたものの、執行の直前に皇帝の命令で減刑されました。その後はシベリアのオムスクで4年間の懲役、さらに兵役に就いています。そんな経験をした作家が、のちにこの小説を書きました。
『罪と罰』は、1866年に雑誌『ロシア報知』で1月から12月まで12回にわたって連載され、翌1867年に単行本になりました。このあと『白痴』『悪霊』『カラマーゾフの兄弟』と、代表作が続いていきます。
物語の入り口――屋根裏部屋の元学生
舞台は1860年代のロシアの首都、サンクトペテルブルク。主人公のロジオン・ロマーノヴィチ・ラスコーリニコフは23歳。学生だったものの今は通っておらず、ひどく貧しく、屋根裏の小さな部屋に住んでいます。部屋代をためこんでいるので、階段で下宿のおかみに会わないよう、こっそり出入りする毎日です。
7月初めの、ひどく暑い夕方。彼は部屋を出て、質屋の老婆アリョーナ・イワーノヴナのもとへ向かいます。頭の中には、ずっと考え続けてきた、ある恐ろしい考えがありました。その帰り道、彼は安酒場で、酔いどれの元役人マルメラードフと出会い、家族のために自分を犠牲にしている娘ソーニャの話を聞かされます。さらに故郷の母から手紙が届き、妹のドゥーニャが、ルージンという男と婚約したことを知らされます。
こうして幕を開けた物語がどこへ向かうのか――それはぜひ本で確かめてください。
読みどころ――心の中の声を、すぐそばで聞く
この小説は、こんな一文で始まります(英訳はコンスタンス・ガーネットによるもの)。
On an exceptionally hot evening early in July a young man came out of the garret in which he lodged in S. Place and walked slowly, as though in hesitation, towards K. bridge.
(七月初めの、ひどく暑い夕方のこと。ひとりの青年が、S横町の下宿の屋根裏部屋を出て、ためらうように、ゆっくりとK橋のほうへ歩いていった。)
最大の読みどころは、主人公の頭の中をそのままのぞき込むような語りです。自分に言い訳をし、次の瞬間には自分をあざけり、また迷う。読んでいるこちらまで息苦しくなるほどの近さで、ひとりの人間の考えの揺れを追いかけることになります。
もう一つは、脇役たちの存在感です。酒場でとめどなく身の上を語るマルメラードフの長い独白は、それだけで一編の短編小説のよう。貧しい人びとがひしめく夏のペテルブルクの街の空気も、ページから立ちのぼってきます。
こんな人におすすめ
- 登場人物の心の動きをじっくり追う小説が好きな人
- 「正しさとは何か」を、理屈ではなく物語で考えてみたい人
- 世界文学の名作に一度ちゃんと挑戦してみたい人
邦訳はいくつもの出版社から出ています。たとえば新潮文庫(工藤精一郎訳・上下巻)、岩波文庫(江川卓訳・全3冊)、光文社古典新訳文庫(亀山郁夫訳・全3巻)など。ロシアの小説では、同じ人物が「ロージャ」のような愛称や、「ロジオン・ロマーノヴィチ」のように父の名にちなんだ呼び名(父称)をつけた形でも呼ばれるので、最初は手元にメモを置いて読むと迷いません。書店で見くらべて、読みやすいと感じた訳を選ぶのがいちばんです。
最初の数ページで、ラスコーリニコフと一緒に屋根裏の階段を息をひそめて下りていたら、もうこの本の世界に入りこんでいます。
English version of this review: Crime and Punishment
参考
- Project Gutenberg「Crime and Punishment by Fyodor Dostoyevsky」(eBook #2554・コンスタンス・ガーネット英訳の本文・冒頭の一文) https://www.gutenberg.org/ebooks/2554
- Wikipedia「Fyodor Dostoevsky」(生没年月日・1849年の逮捕と銃殺刑判決・執行直前の減刑・シベリアでの懲役・主な長編の刊行年) https://en.wikipedia.org/wiki/Fyodor_Dostoevsky
- Wikipedia「Crime and Punishment」(1866年の雑誌連載・1867年の単行本・舞台・主人公の設定) https://en.wikipedia.org/wiki/Crime_and_Punishment
- 新潮社『罪と罰〔上〕』新潮文庫・工藤精一郎訳 https://www.shinchosha.co.jp/book/201021/
- 光文社古典新訳文庫『罪と罰1』亀山郁夫訳(全3巻) https://www.kotensinyaku.jp/books/book67/
- Wikipedia「罪と罰」(日本語訳の一覧・岩波文庫の江川卓訳 全3冊) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%BD%AA%E3%81%A8%E7%BD%B0
