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名前は知っているけれど、実はちゃんと読んだことがない――そんな名作の代表が、L・M・モンゴメリの『赤毛のアン』(原題 Anne of Green Gables)かもしれません。1908年にカナダの作家が書いたこの小説は、世界で5,000万部以上売れたといわれ、いまも読み継がれています。
アニメや絵本で「おしゃべりな赤毛の女の子の話」として覚えている方も多いでしょう。でも原作を開くと、思っていた以上に笑えて、ときどきはっとさせられる物語です。今回は、はじめて読む方に向けて、物語の入り口と読みどころを紹介します。結末や後半の展開には触れません。
どんな本か――作者と時代
作者のルーシー・モード・モンゴメリは、1874年11月30日にカナダのプリンス・エドワード島、ニュー・ロンドンで生まれ、1942年4月24日にトロントで亡くなりました。物語の舞台も、作者のふるさとであるプリンス・エドワード島。19世紀の終わりごろの、アヴォンリーという架空の村です。
『赤毛のアン』は1908年6月、アメリカ・ボストンのL・C・ページ社から出版されました。たちまち評判になり、翌1909年の11月までに6回も刷りを重ねています。のちに続編も書かれ、アンを主人公にした本はシリーズとして何冊も出ることになります。
物語の入り口――男の子のはずが、やってきたのは女の子
アヴォンリーの「グリーン・ゲイブルズ(緑の切妻屋根の家)」には、マシューとマリラという年配の兄妹が暮らしています。二人は結婚しておらず、六十歳になったマシューの農作業を手伝ってもらうために、ノヴァ・スコシアの孤児院から男の子を一人引き取ることにしました。
約束の日、マシューは馬車で駅まで迎えに行きます。ところが駅で待っていたのは、男の子ではなく、やせた女の子でした。たっぷりとした赤毛の、十一歳の少女アン・シャーリーです。駅長によれば、待合室に入るよう勧めても「外のほうが想像の余地がある」と言って、外に座って待っていたのだそうです。
口数の少ないマシューを相手に、アンは家までの道のりをずっとしゃべり続けます。そして家に着けば、しっかり者のマリラが「頼んだのは男の子だ」と待ちかまえている。手ちがいでやってきたこの少女が、グリーン・ゲイブルズでどうなっていくのか――それはぜひ本で確かめてください。
読みどころ――アンのことばと、まわりの大人たち
いちばんの読みどころは、なんといってもアンのことばです。駅から家へ向かう道で、アンはマシューにこう話しかけます。
Isn't it splendid to think of all the things there are to find out about?
(これから知ることがたくさんあるって考えると、すてきじゃありません?)
気に入った並木道や池に「よろこびの白い道(White Way of Delight)」「きらめく湖(Lake of Shining Waters)」と自分だけの名前をつけ、自分の名前「アン(Anne)」も「最後にEのつくアンで呼んでほしい」と言い張る。大げさで、思いこみが激しくて、でも誰よりも世界を楽しもうとしている。読んでいると、つい一緒に笑ってしまいます。
もう一つの読みどころは、アンを迎える大人たちです。とびきり内気なマシュー、きまじめで融通のきかないマリラ、窓辺から村じゅうに目を光らせている隣人のレイチェル・リンド夫人。アンの言動にふりまわされる大人たちの反応が、物語のもう一つの面白さになっています。子どものころに読んだ人が、大人になって読み返すと、マリラの側の気持ちがよく分かる――そんな読み方ができるのも、この本の懐の深さです。
こんな人におすすめ
- アニメや映像作品は知っているけれど、原作を読んだことがない人
- 読んだあとに、少し前向きな気持ちになれる物語を探している人
- 子どものころに読んだきりで、大人の目で読み返してみたい人
邦訳・版の案内
日本では、村岡花子訳が1952年に三笠書房から出て、『赤毛のアン』という題名とともに広く親しまれてきました。いま手に取りやすいのは新潮文庫の村岡花子訳で、シリーズものとして続きも出ています。
訳註つきで読みたい方には、松本侑子訳の文春文庫があります。作中のシェイクスピアなどの英文学や聖書の句、19世紀カナダの暮らしを解説した訳註で、物語の背景まで楽しめます。読みくらべてみるのもおすすめです。
駅のホームで、アンが迎えを待っている最初の場面を読んだら、きっと続きが気になってしかたがなくなります。
English version of this review: Anne of Green Gables
参考
- Project Gutenberg「Anne of Green Gables by L. M. Montgomery」(eBook #45・本文と序盤の設定) https://www.gutenberg.org/ebooks/45
- Wikipedia「Lucy Maud Montgomery」(生没年と生没地・刊行直後の増刷) https://en.wikipedia.org/wiki/Lucy_Maud_Montgomery
- Wikipedia「Anne of Green Gables」(初版の刊行日・出版社・舞台・発行部数) https://en.wikipedia.org/wiki/Anne_of_Green_Gables
- Wikipedia(日本語)「赤毛のアン」(日本語訳の一覧・村岡花子訳の初版) https://ja.wikipedia.org/wiki/赤毛のアン
- 新潮社『赤毛のアン―赤毛のアン・シリーズ1―』新潮文庫・村岡花子訳 https://www.shinchosha.co.jp/book/211341/
- 文藝春秋『赤毛のアン』文春文庫・松本侑子訳(訳註つき) https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167913243
