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「フランケンシュタイン」と聞くと、大きな怪物の姿を思い浮かべる人が多いかもしれません。でも原作を読むと、まず驚くのはそこです。フランケンシュタインは怪物の名前ではなく、怪物をつくった若い科学者の名前。原作の怪物には、名前がありません。
メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』(原題 Frankenstein; or, The Modern Prometheus)は、1818年にイギリスで出版された長編小説です。映画や漫画で「知っているつもり」になりやすい作品ですが、中身は思っていたよりずっと静かで、切実な物語です。今回は、はじめて読む方に向けて、物語の入り口と読みどころを紹介します。結末や後半の展開には触れません。
どんな本か――作者と時代
作者のメアリー・シェリーは、1797年8月30日にロンドンのサマーズ・タウンで生まれ、1851年2月1日にロンドンで53歳で亡くなりました。父は思想家で作家のウィリアム・ゴドウィン、母は女性の権利を論じた思想家メアリ・ウルストンクラフトです。
この小説が生まれたのは、1816年の夏。スイスのジュネーヴ湖のほとりにあるディオダティ荘で、詩人のバイロン卿が「それぞれ怪談を書こう」と持ちかけたのがきっかけでした。なかなか案が浮かばなかったメアリーは、やがてある光景を思い描き、それを長編に育てていきます。書きはじめたのは18歳のとき。1818年1月1日、ロンドンの出版社から全3巻で出版されましたが、作者の名前は載っていませんでした。1831年には、執筆のいきさつを語る序文を加えた改訂版が、彼女自身の名前で出ています。
物語の入り口――北極の氷の上で
物語は、小説らしい語りではなく、手紙から始まります。書き手はロバート・ウォルトンという若い探検家。北極点をめざす航海に出た彼が、イギリスにいる姉サヴィル夫人に宛てて、旅の様子を書き送っています。
ある日、氷に閉ざされた船から、乗組員たちは奇妙なものを目にします。犬ぞりに乗った、人のかたちをした、とてつもなく大きな何かが、北へ走り去っていったのです。翌朝、今度は氷のかけらに乗って流れてきたそりから、凍えて衰弱しきった一人の男が助け出されます。この男こそヴィクター・フランケンシュタイン。彼がウォルトンに語りはじめる身の上話が、この小説の本体です。
ジュネーヴの名家に生まれたヴィクターは、少年のころ古い錬金術師の本に夢中になり、やがてドイツのインゴルシュタット大学で化学や自然哲学(自然のしくみを探る学問)を学びます。そこで彼は、生命のしくみそのものに手を伸ばしていくのですが――その先は、ぜひ本で確かめてください。
読みどころ――「つくった者」の責任
有名な場面の一つが、第5章の書き出しです。
It was on a dreary night of November that I beheld the accomplishment of my toils.
(それは十一月の、もの寂しい夜のことだった。わたしは、自分の苦労が実を結ぶのを目にしたのだ。)
ここから物語は、ホラーの見せ場よりも、心の問題へと向かっていきます。何かを生み出した人は、その結果にどこまで責任を負うのか。人工知能や生命科学のニュースがあふれるいま読むと、200年前の問いとは思えないほど身近に感じられます。SF小説で知られる作家ブライアン・オールディスが、この作品を「最初の本当のSF」とみなすべきだと論じたのも、うなずけます。
もう一つの読みどころは、語りの入れ子構造(話の中に別の人の話が入る形)です。読者が読むのは、ヴィクターの話を聞いたウォルトンが姉に書き送った手紙。誰の言葉を、どこまで信じて読むか――それを考えながら読むと、物語がぐっと立体的になります。
こんな人におすすめ
- 映画やアニメの「フランケンシュタイン」は知っているけれど、原作は読んだことがない人
- 怖い話よりも、人間の孤独や責任を描いた話に惹かれる人
- SFの原点といわれる作品を、一度は自分の目で読んでおきたい人
邦訳を選ぶなら
邦訳は複数出ています。たとえば新潮文庫(芹澤恵訳)や、光文社古典新訳文庫(小林章夫訳)など。書店で最初の手紙の数ページを読みくらべて、しっくりくる訳を選ぶのがいちばんです。
氷の海で助け出された男が口を開いたら、もう最後のページまで彼の話から離れられなくなるはずです。
English version of this review: Frankenstein
参考
- Project Gutenberg「Frankenstein; or, the Modern Prometheus by Mary Wollstonecraft Shelley」(eBook #84・本文。手紙の枠組み・序盤の内容・第5章の書き出し) https://www.gutenberg.org/ebooks/84
- Wikipedia「Mary Shelley」(生没年・生地・両親) https://en.wikipedia.org/wiki/Mary_Shelley
- Wikipedia「Frankenstein」(正式な題名・初版の刊行日と出版者・匿名での刊行・1831年改訂版・執筆のきっかけ・ブライアン・オールディスによる「最初の本当のSF」という評価・怪物に名前が無いこと) https://en.wikipedia.org/wiki/Frankenstein
- Wikipedia「Brian Aldiss」(SF小説で知られる作家であること) https://en.wikipedia.org/wiki/Brian_Aldiss
- 新潮社『フランケンシュタイン』新潮文庫・芹澤恵訳 https://www.shinchosha.co.jp/book/218651/
- 光文社古典新訳文庫『フランケンシュタイン』小林章夫訳 https://www.kotensinyaku.jp/books/book113/
